当研究班について

B. 研究方法

モデル事業において得られた知見に基づき、診療行為に関連した死亡の届け出基準など調査分析に関わる諸条件を検討すると共に、それに従事する人材の育成とその資質向上に当たっての課題を明確にし、育成のための研修プログラム案を考案することを目標とした。

平成19年度「医療関連死の調査分析に係る研究」(主任研究者 山口徹、以下先行研究と略す)において、モデル事業における調査・評価の手続のための各種書類及び各種マニュアル案を作成していることから、平成20年度においては、これらをより洗練されたものにするために、日本全国で実際に発生した様々な診療関連死について、当該マニュアル類を当てはめて検証することにより、調査・評価を行う上での各種マニュアル案の問題点・改善を要する点を明らかにし、実用的なマニュアル類を作成する。これをもとに、人材育成のための教育・研修プログラムの作成準備を行う。

これらの検討を効率的に実践するために、当研究班の研究協力者を以下の6つのグループに分け、分担しながら並行して作業を進めることとした。研究代表者と分担研究者は総てのグループに所属し、研究協力者はそれぞれ複数のグループに所属するなど、グループ間の横の連携に留意した。グループ内の意見交換はグループ会議あるいはメイリングリストによるe-mail交信で行った。全体の班会議2回の他にグループリーダー会議を2回開催し、グループ間の意見調整を行った。各グループのメンバーは表1の通りである。

1)届け出等判断の標準化検討グループ(責任担当者 山口・高本)

a. 医療機関からの届け出

第三次試案における医療機関から医療安全調査委員会への届け出範囲を基に、その判断基準及び具体例についてグループディスカッション方式で検討を重ねた。

b. 捜査機関への通知

大綱案における、医療安全調査委員会から捜査機関への通知規定について、その判断基準及び具体例についてグループディスカッション方式で検討を重ねた。

以上a及びbの検討に際しては、臨床専門家を中心としながら、解剖の専門家、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業の地域代表、弁護士等法律の専門家、医療死亡事故の遺族等をメンバーに加え、多様な視点から検討を行うことに留意した。

2)事例受け付け対応マニュアル検討グループ(責任担当者 矢作・種田)

医療安全調査委員会(仮称)の組織、事例の届け出に必要な項目の整理、事例受け付け体制、調査チーム編成など、届け出の受理から調査の実施までの手順マニュアルを作成する。届け出があったときの初期対応が重要であり、各地域においてこれらの作業を行える人材の確保・育成方法を検討する。このマニュアル作成は今年度新たにスタートしたものである。

3)解剖調査マニュアル検討グループ(責任担当者 深山・山内)

先行研究において作成された「一般医療機関での診療関連死調査のための解剖調査マニュアル案」(ver.3)をもとに、2回のアンケート調査を行い、それを基に改訂作業を行った。

第1回目のアンケート調査は、東京地域モデル事業解剖担当医を対象に実施した。この結果をもとに、解剖調査マニュアル・解剖実施マニュアル案改訂ver5、Q&A案ver2.2を作成した。さらに、これに引き続いて東京地域以外の9地域のモデル事業解剖担当医を対象に第2回アンケート調査を行い、その結果をもとに再びマニュアルの改訂作業を行い、今年度の最終案をまとめた。

4)事例評価法・報告書作成マニュアル検討グループ(責任担当者 宮田・城山)

平成19年度の先行研究で作成された「評価に携わる医師等のための評価の視点・判断基準マニュアル(案)」(以下マニュアル案第1版)を実際の事例で使用しながら、マニュアルとして精緻化、適正化を図る中で、全国的に統一のとれた評価視点、表現・用語使用の確立を目指し、マニュアル案第2版(2008年度版)を完成させる。

a. マニュアル案第1版の実地検証研究1

マニュアル案第1版を実地使用しながら、その問題点を明らかにしつつマニュアル改訂作業を進める実地検証研究である。

b. マニュアル案第1版の実地検証研究2

モデル事業中央事務局に既に提出されている札幌、茨城、新潟、東京、大阪の5地区の最新事例の評価結果報告書を、匿名化したうえでグループメンバーに郵送し、[1]報告書の評価視点、表現・用語使用の問題点、?その作業を行いながら気づいたマニュアル案第1版の問題点・改善点に関して意見をまとめる作業を行った。この研究に先立ち、モデル事業運営委員会で、マニュアル案の改定に役立てる目的で報告書をこのグループ内で閲覧することの承認を得た。

c. マニュアル案第1版の用語・表現の仕方に関する検証研究

グループの法律家メンバーにより、マニュアル案第1版で用いられている用語・表現の仕方に関して法的立場から検証する。

5)調整看護師(仮称)業務マニュアル検討グループ(責任担当者 永池・佐々木)

先行研究の調整看護師業務マニュアル案の改訂にあたり、次の2つの活動を同時平行にて実施した。第1はモデル事業地域事務局の調整看護師が活用している業務マニュアルの再整備と統合であり、第2は調整看護師のケア対象者に類似する危機的状態にある患者・家族のケア経験をもつ看護師等へのインタビューの実施である。

本活動を通して、調整看護師が果たすべき役割・機能を明らかにすることで、看護師の本来業務と事務業務とを明確にしつつ、「大綱案」に示された調整看護師の活動とを照合した上で、現状に即した調整看護師の標準業務マニュアル改訂版を作成した。また、調整看護師に求められる資質の明確化によって、調整看護師養成プログラムの構築や、遺族・医療機関等が抱えるコンフリクト等の問題に対する調整看護師の関与等について、今後の活動に対する示唆を得ることとした。

6)遺族等の追跡調査グループ(責任担当者 吉田)

対象は平成20年1月から12月までの1年間にモデル事業において評価結果報告会が行われた全事例(24例)の遺族と申請医療機関の医療従事者及び医療安全管理者とした。

倫理面での配慮として、研究者が遺族や医療機関の情報に直接接することのないよう、中央事務局が指定した事例について地域事務局が調査対象者に調査票を送付した。

調査依頼文中に本調査への協力は完全に任意であること、調査票への回答は無記名方式で行われ、回答者の個人情報と回答内容が結びつくことはないことを明記した。調査は多肢選択及び自由記述型のアンケート方式で、回答後は研究協力者宛てに返送していただいた。また、遺族についてはヒアリングに協力することを承諾した方々に対し、電話による詳細な聞き取り調査を行った。

倫理面への配慮

本研究では、診療関連死の死因究明と再発防止策の提言のための調査の在り方、実施方法を検討し、そのための人材育成、教育の研修プログラムの骨格を策定するものであるが、本研究に関連して、モデル事業での診療関連死事例および他の事例を利用する場合は、調査の対象となる患者・遺族および医療関係者への倫理面での配慮を行い、個人情報等が漏洩することのないよう厳重に留意する。アンケート等を行う場合はその対象となる医師、調整看護師等の医療従事者や医療機関、協力いただく遺族や調査対象の死亡された患者の個人情報については、個人情報保護法に準拠することとする。

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